昨年度までに親水性モノマーであるアクリル酸と種々のメソゲン(シアノビフェニル基、カルボキシビフェニル基、コレステレート基)を持つモノマーの共重合を行い、水に膨潤しつつ液晶性の架橋点を有するハイドロゲルを合成したが、本年度はまずゲルの繊維化を行った。これらのゲルを乾燥状態で延伸し水に膨潤させたところ、配向状態を保ったままゲル化し、ゲルファイバーを合成することができた。偏光顕微鏡観察・X線回折法により構造解析を行ったところ、いずれのファイバーも側鎖が層状にならぶスメクチック構造を形成しており、分子配向がマクロスコピックレベルで達成されていることが分かった。 特に、シアノビフェニル基を有するゲルファイバーは、続く昇温により側鎖が主鎖に対して傾いて配向しながら層が形成され側鎖がヘキサティックに配列している状態(SmI構造)から側鎖が主鎖に対して垂直に配向しながら層が形成されている以外に側鎖の位置相関は無い状態(SmA構造)へ構造転移することが分かった。転移温度は42度であった。この時、ホットステージ上で、ファイバーの片末端を基盤上に固定し徐々に加熱したところ、転移温度付近で収縮し始め、50度に達すると半分以下の長さになり80度では初期長の4分の1にまで収縮した。同時に、等方相で調製した無配向ゲルファイバーを用いて同様の収縮実験をおこなったところ、収縮挙動は見られなかったので、配向が収縮に必須であることが分かった。配向繊維の収縮時の広角X線回折法から、収縮は配向が維持されたまま行われていることが分かったので、一般的なエントロピー力による収縮とは異なり、分子レベルの構造転移がより高次の構造変化を誘起したことによると考察した。 この結果は、水環境下でしかも生体温度で収縮する新しいケモメカニカルシステムを提案するものであり、体内埋埴型の人工筋肉の開発へ繋がるものと考える。
|