先端固体NMR法によるpolyamorphous構造およびダイナミクスの精密解析

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13750830
• 研究種目: 奨励研究(A)
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 梶 弘典 京都大学, 化学研究所, 助手 (30263148)
• キーワード: ガラス状高分子 / ポリエチレンナフタレート / フェノキシ樹脂 / ポリアクリロニトリル / 物理エージング / 固体NMR / ダイナミクス / OH_<-π>相互作用

研究概要

ガラス状高分子は、物理エージング(physical aging)と呼ばれる、ガラス転移温度近傍での熱処理により多様な構造をとることができる。この物理エージングにより生じる構造変化は、基礎研究として興味深いものであるとともに、材料の実用化に大きく貢献している。しかし、ガラス状態での精密な構造解析が困難であったため、これまでその微視的詳細は明らかにされてこなかった。本研究では、非晶ポリエチレンナフタレート(PEN)試料のT_g直下での熱処理による局所構造・ダイナミクスの詳細な変化を固体NMR法により検討した。
エステル交換法により合成したPENを窒素雰囲気下280℃で10分間融解したのち、氷水中0℃で急冷し非晶PEN試料を得た。この非晶PEN試料を窒素雰囲気下110℃で所定時間熱処理することにより物理エージングされた試料を得た。
得られた試料に対し固体NMR法によりスピン格子緩和時間(T_<1C>)測定を行った。T_<1C>減衰曲線をKWW関数(exp{-(t/T_<1C>)^β})により解析したところ、カルボニル炭素およびナフタレン環炭素のT_<1C>は物理エージングにより長くなり、メチレン炭素のT_<1C>は逆に短くなった。この結果から、物理エージングによりナフタレン部位ではパッキングが密になることにより剛直さが増す一方、メチレン部位では逆に運動性の増大が示唆された。βの値からは、ナフタレン環部位のダイナミックスはかなり均一であるが物理エージングとともに不均一になっていくことが、またメチレン部位のβはかなり小さく、不均一な状態にあることが示唆された。
また、非晶性高分子であるフェノキシ樹脂において、OH_<-π>相互作用が存在すること、およびそのダイナミクスを明らかにした。また、乱れた構造をもつポリアクリロニトリルのコンホメーションを明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] Hironori Kaji, Fumitaka Horii: "Characterization of specific interactions in polymers by an MAS NMR method without irradiating passive spins"Proceedings of the sixth International Symposium Organized by Institute for Chemical Research (ICR), Kyoto University. 123-126 (2001)
• [文献書誌] Nibuhiko Inui, Hironori Kaji, Fumitaka Horii, Klaus Schmidt-Rohr: "Conformational Analyses of Poly(ethylene naphthalene-2, 6-dicarboxylate) by Two-Dimensional Double-Quantum Solid-State NMR Spectroscopy"Polymer Preprints, Japan. 50(9). 2011 (2001)
• [文献書誌] Hironori Kaji, Toshihiro Tai, Fumitaka Horii: "One-and Two-Dimensional MAS ^<13>C NMR Analyses of Molecular Motions in Poly(2-hydroxypropyl Ether of Bisphenol-A)"Macromolecules. 34(18). 6318-6324 (2001)
• [文献書誌] Kazunori Fuke, Hironori Kaji, Takenori Isomura, Toshihiro Tai, Fumitaka Horii: "The Analysis of Dynamics in Polymers by a Two-Dimensional Solid-State ^<13>C MAT Technique"Proceedings of NMR Conference, Japan. 40. 126-127 (2001)
• [文献書誌] Hironori Kaji, Klaus Schmidt-Rohr: "Conformation and Dynamics of Atactic Poly(acrylonitrile). 3. Characterization of Local Structure by Two-Dimensional ^2H-^<13>C Solid-State NMR"Macromolecules. 34(21). 7382-7391 (2001)
• [文献書誌] Hironori Kaji, Klaus Schmidt-Rohr: "Conformation and Dynamics of Atactic Poly(acrylonitrile). 2. Torsion Angle Distributions in Meso Dyads from Two-Dimensional Solid-State Double-Quantum ^<13>C NMR"Macromolecules. 34(21). 7368-7381 (2001)