両末端に官能基を持つポリジメチルシロキサン(PDMS)と反応不活性のPDMSの混合物に対して末端架橋反応を行い、線状鎖がトラップされた高分子網目を合成した。この網目のメッシュサイズ(M_x)は反応性PDMSの分子量で制御され、ゲスト鎖のサイズ(M_g)は反応不活性PDMSの分子量に等しい。この方法で合成されたM_gとM_xが明確な試料を用いて、網目中のゲスト線状鎖のダイナミックスをM_xおよびM_gを変数としてレオロジー的手法を用いて調べた。 損失正接(tanδ)の角周波数(ω)依存性に、ゲスト鎖の粘弾性緩和を示す明瞭なピークが現れ、ピーク位置はM_gの増加とともに低周波数側(長時間側)にシフトした。ピーク位置の周波数から求められる特性緩和時間τのM_g依存性は、M_xに拘わらず、ほぼ3乗のベキ乗則に従い、管模型の理論的予測とほぼ一致した。 一方、同サイズのゲスト鎖で比較すると、τはM_e。(絡み合い点間分子量)を境に劇的に変化した。非常に密な網目(M_x=0.7M_e)中では、絡み合い網目(M_x=1.2M_e)と比較すると、τは約10^5倍も大きくなり、ゲスト鎖の運動が著しく遅延されていることがわかった。管模型理論の予測では、遅延効果は1/M_xに過ぎないため、実験結果を説明できない。M_x=0.7Meの網目はほとんどが化学架橋点で形成され、M_x=1.2M_eの網目は物理的な鎖の絡み合いで主に形成されているというマトリックス網目の質の差を考慮しなくてはならないと考えられる。実際、化学架橋点主体の網目鎖の運動性は、物理的絡み合い主体のものよりも著しく抑えられているという報告例がある。このような化学的な効果は管理論の取り扱いの範疇ではないが、実験的にはM_x<M_eの網目が化学架橋点主体となるのは必然であり、τのM_x依存性の理論的取り扱いの難しさを示唆している。
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