末端架橋反応を用いて、片末端のみが網目に固定された「ぶら下がり鎖」を含んだゴム弾性網目を作製し、動的粘弾性を調べた。ゴム網目中のぶら下がり鎖の含量が増加するにつれて、損失正接が増加することがわかった。すなわち、ぶら下がり鎖の導入は、ゴム材料の制振性能を向上させることがわかった。既存の制振ゴムは振動エネルギー散逸のメカニズムとしてガラス転移を利用しているため、制振性能の温度・周波数依存性が非常に強く、使用用途が限定されてしまうという問題があった。しかし、本研究のぶら下がり鎖を導入する手法は、ガラス転移などの構造転移を利用していないため、制振性能が温度や周波数にほとんど依存しないという特性があり、新規な制振性ゴム材料の概念として有効であると考えられる。制振性能の温度・周波数依存性が弱いという特性は、ぶら下がり鎖の粘弾性緩和が非常に遅いことが理由である。比較のために、同じサイズの自由鎖を導入した網目の動的粘弾性を作製したところ、ぶら下がり鎖の方が粘弾性緩和がゆっくりと進行することがわかった。また、この制振ゴムのベースとなっているシリコーンエラストマーの二軸伸張測定を行い、ひずみエネルギー密度関数のキャラクタリゼーションを行った。網目中の絡み合い数が減少するにつれて、ひずみの非線形項の寄与が小さくなっていくことがわかった。また、ゴム弾性分子論として提出されているslip-link modelは実験結果をよく再現することがわかった。
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