アミノ酸のジアルキル誘導体を疎水部に有し、両イオン性(カルボキシル基とアミノ基)、アニオン性(カルボキシル基)、カチオン性(アミソ基)の親水部、あるいはポリエチレングリコール(PEG)を親水部とする一連のアミノ酸型脂質を合成した。構造は^1H-NMR、RI、mass(TOF)により同定した。各々の脂質について基礎物性(相転移温度、転移エンタルピー、分子占有面積)および分子集合形態を整理した。電子顕微鏡観測により両イオン性脂質はリシ脂質と同様に二分子膜小胞体を形成することが明らかになった。相転移温度は相当するアシル鎖を有するリン脂質(DPPC)に比較して10℃程度高く、疎水部の疎水性相互作用と親水部の静電的相互作用により高い分子充填状態で配向しているものと考えられる。両イオン性リン脂質小胞体の表面状態との関係を明確にするため、X線結晶構造解析による分子配向の解析を計画している。 アニオン性脂質、PEG脂質をリン脂質小胞体あるいは両イオン性脂質小胞体に導入し、分子量の異なる水溶性高分子を添加しで小胞体凝集が生起する臨界分子量を計測したところ、臨界分子量が著しく増大した。これは小胞体表面をアニオン基やPEG鎖で修飾すると小胞体表面と水溶高分子の相互作用、小胞体の分散安定度を調節できることを示している。アニオン性のリン脂質(DPPG)は小胞体表面に負電荷を付与して小胞体の凝集防止、被覆層数の減少に効果があるが、生体に投与すると血小板凝集を惹起し、循環血小板数が著しく減少する。一方、合成したアニオン性脂質は小胞体の凝集防止、被覆層数の減少にはDPPGと同等の効果を有しているが、生体に投与しても血小板凝集を惹起しなかった。これは、血小板凝集が小胞体表面の負電荷に特異的なものでなく、分子レベルでの認識により惹起されることを示す知見である。
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