本年度は前年度合成した両イオン性(カルボキシル基とアミノ基)、アニオン性(カルボキシル基)、あるいはポリエチレングリコール(PEG)を親水部とする一連のアミノ酸型脂質によりリン脂質小胞体の表面を修飾した試料について、小胞体の表面状態と生体適合性の関連を明確にすることを目的とした。 リン脂質小胞体の成分としてアニオン性、あるいはPEG脂質を混合した小胞体を調製した。ラットの尾静脈より投与(全血液量に対して10%)し、血球数の推移、補体価(CH50)の計測から生体適合性を評価した。何れの小胞体の投与においても赤血球数には影響を与えなかった。アニオン性リン脂質(DPPG)は血漿蛋白質の補体成分に作用し補体活性を引き起こすことが明らかになった。これにより著しい血小板減少、白血球増大を惹起する。一方、アニオン性アミノ酸型脂質では補体活性、血小板減少は観測されず、リン脂質小胞体の表面修飾剤として有効である。この脂質組成の小胞体内水相にヘモグロビンを内包させる工程を確立、ウサギへの投与試験からの高い安全度を確認した。投与2時間後に白血球数の一過性の増大が認められたが、これは細網内皮系による小胞体の貧食作用に関連していると考えられる。両イオン性アミノ酸型脂質の形成する小胞体はアニオン性、PEGアミノ酸型脂質で表面修飾することにより水溶性高分子との相互作用による凝集が著しく抑制された。この小胞体はリン脂質成分を含まない新しい小胞体であり、リン脂質小胞体とは異なる表面状態を有している。血液と混合しても凝集は生起しない。ラットへの投与試験では、投与直後に一過性の血小板減少の傾向が認められたが、PEGアミノ酸型脂質の導入量を増大させることにより回避できた。生体適合性、代謝などより詳細検討が必要であるが、新しい小胞体として新しい展開が期待できる。
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