本研究は、当研究グループで独自に開発した炭酸ガスレーザーによるレーザーデトネーション型原子状酸素発生装置に紫外線光源を取り付け、高度300〜500kmの低地球軌道環境(low Earth orbit : LEO)をシミュレートし、原子状酸素と紫外線の同時照射効果を詳細に解明することを目的としている。試料としてはMLIのモデル表面としてポリイミドフィルムを選び、5eVの運動エネルギーを有する原子状酸素と紫外線を照射した前後で表面状態の変化をX線光電子分光法を用いて大気曝露なしの状態で検証した。また、原子状酸素と紫外線の相対強度を連続的に変化させ、原子状酸素と紫外線の複合照射効果(シナジー)におよぼす原子状酸素/紫外線の強度比の影響を明らかにした。平成13年度には、紫外線としてエネルギーの高い172nmの波長域の真空紫外線を使用した。その結果、(1)原子状酸素のみ照射した場合、ポリイミドのエロージョンレートは原子状酸素の入射角に対してcos則に従うことが判った。(2)原子状酸素/紫外線の相対強度比とエロージョンレートとの間には相関関係があり、原子状酸素に対する紫外線の相対強度が低い場合には、エロージョンレートは原子状酸素のみ照射したときに比べて減少し、紫外線の相対強度が高い場合には逆に増加することが明らかになった。また、紫外線の影響は原子状酸素により材料表面が酸化された場合にのみ生じることが、X線光電子分光法による表面解析により明らかになった。これにより、宇宙実験では制御できない原子状酸素と紫外線の相対強度比の影響を地上模擬実験により明確化することができた。これらの結果から本年度の当初の目標は十分に達成されており、来年度の研究を遂行するにあたり何ら問題はないと考えられる。
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