本年度は、昨年度までに蓄積された分子動力学計算のノウハウを実際の問題に適用し、窒素分子の内部モードの緩和と解離について大規模な解析を行なった。窒素分子の回転/振動準位はRKRポテンシャルに回転の効果を考慮した核間ポテンシャルを用いた量子計算により解析し、このRKRポテンシャルを核間ポテンシャルに、分子間ポテンシャルにBillingの経験式を用いて、DSMC法による統計学的な衝突計算を行ない、回転準位間遷移定数、解離速度定数を定式化した。得られた各速度定数は並進温度が非常に高い領域まで求められており、工学的にも非常に重要な結果を与えていると考えている。並進温度が低い領域では、Rahnらの実験式と比較的良い一致が見られており、また解離速度定数は温度非平衡を考慮した場合のParkモデルと同様の傾向を示している。この速度定数を用いて衝撃波背後の緩和過程の解析を行なった結果、従来の緩和モデルよりもより実験に近い結果が得られた。また再突入飛翔体まわりの著しく非平衡状態にある衝撃層の解析に、上記のようにして得られる準位間遷移速度係数を組み込むためには、流れ場をDSMC法で計算するのが現実的である、との立場から、飛翔体まわりの3次元流れ場を解析するDSMCプログラムコードを開発した。現状では本コードはまた予備的なもので、旧来型のマクロな緩和速度定数から導出される緩和確率を用いて内部モードの緩和を計算しているが、本コードにより自由分子流から遷移領域まで広範囲な再突入環境の非平衡現象の3次元解析が可能となった。その応用の一つとして、MUSES-Cカプセル回りの非平衡流れ場を高度120から72kmまで解析し、希薄気体効果により変化する機体のピッチングモーメントについて調べた。その結果、飛行高度が上昇するにつれて機体は弱い静的不安定となることが確認され、0.2Hz程度のスピン安定により安定化させることが必要との知見を得た。
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