研究概要 |
緊密土壌ストレス下でのコムギ根系の発展能力について、(1)様々なコムギ系統についてストレス耐性による選別を行なった上で、(2)実生形態と根貫入力との関連性および(3)根部内生成分と発展能力との関連性について調査し、多くの知見が得られた。以下にその概要を示す。(1)緊密土壌ストレス耐性選抜に適した簡易評価法を開発し、国内外の研究機関から収集したコムギ系統計60品種[エチオピア在来種,CIMMYT(国際トウモロコシ・コムギ改良センター)育成品種および北海道内主要品種]について評価した結果、極めて特徴的な根貫入力を示す6品種を選抜できた。加えて、圃場試験およびポット作期移動試験により、これらの根貫入力が環境安定型遺伝形質であることを示した。(2)緊密土壌ストレス耐性と正相関する実生形態の巨視的形質として、根量(種子根および冠根)・草丈を見出した。極めて高い根貫入力を示す品種では、個根の微細環境応答(伸長角度・側根局在性・根径)が特徴的であることを示した。全ての供試品種の根に共通して、ストレス感受が根端分裂細胞活性および細胞密度にほとんど影響しないこと、ストレス感受部位の表皮細胞では常にネクローシスが発生していることを示した。次年度は、根端形態と細胞内微細構造に着目し土壌貫入装置としての生体構造の意義についての考察を加える。(3)緊密土壌ストレス耐性に優れる品種の根部全体において単糖類に比べ二糖類を多く検出したが、ストレス感受前後における可溶性糖類の量的変化については検出することができなかった。セルロース・リグニン等の構造性多糖類に関してもストレス耐性との関連性は見出せなかった。次年度は、根部位別に糖類分析を行なうことでエネルギー局在としての糖類の消長をみるとともに、ストレス特異的タンパク質ならびに遺伝子発現について解析し、ストレス耐性に影響を与える生理学的ポテンシャルと根系発展能力との関係を明らかにする。
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