研究概要 |
登熟期の高気温は収量の低下を導くことが知られており,高気温下での暗呼吸速度の増大がその一因であると指摘されている.しかしながら,登熟期の気温が暗呼吸と乾物生産に及ぼす影響を定量的に調査した報告はない.そこで,本研究では,播種期を1ヶ月毎に3回行うことで登熟期の気温を変え,気温の差が登熟期の暗呼吸速度と乾物生産量に及ぼす影響を調査した. 出穂日は4月播種で8月5日,5月播種で8月19日,6月播種で9月2日であり,出穂後6日目から13日間の平均気温はそれぞれ28.1℃,23.8℃,24.6℃であった.出穂後6日目の乾物重は4月播種と5月播種でほぼ等しく,6月播種では低かった.出穂後19日目の乾物量はいずれの播種期においても光強度が高いほど高かった.穂の相対生長率と穂の暗呼吸速度との間には相関関係が認められ,暗呼吸速度は4月播種と5月播種ではほぼ等しく6月播種で低かった.葉身からの同化産物の転流速度と葉身の暗呼吸速度との間に相関関係が認められ,播種期による差は小さかった.同様の相関関係が茎においても認められ,暗呼吸速度は6月播種で低かった.また,総光合成量と茎葉部乾物減少量の和(Pg+ΔS)と穂の乾物増加量との関係から,6月播種では,Pg+ΔSに対する穂の乾物増加量が高かった.6月播種では暗呼吸速度の低いことが穂の乾物増加量の増大に貢献したと考えられた. 以上より,異なる播種期で生育したイネの登熟期の乾物生産効率は暗呼吸速度が高いと低下したが,登熟期の暗呼吸速度は気温以外の要因の影響を大きく受け,暗呼吸速度および乾物生産に及ぼす気温の影響は比較的小さいと考えられた.
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