本研究の目的は人間の景観に対する反応に、成長環境がどのような影響を与えているのかを明らかにすることである。本研究では複数の景観映像を成長環境の異なる被験者に提示し、その時の生理・心理的反応を検討した。 被験者の成長環境は都市部と農村部の2タイプに分類した。この分類は単なる出生、成長場所ではなく、居住地の周辺環境や記憶に残っている原風景なども参考にして行った。提示景観には山岳、草原、森林、都市、農村を移した8枚のスライドを利用した。被験者の反応は心理的指標としては主観評価(嗜好性など)、感情状態(POMS法)、認知行動(眼球運動)を、生理的指標としては脳機能(脳波)、自律神経系機能(血圧、心拍)を測定した。 実験の結果、類似した景観に対しては心理・生理的反応も類似する傾向がみられた。反応に大きな影響を与える景観要素としては、第一に「広がり」や「明るさ」といった空間の質が考えられた。また、景観要素と心理・生理反応の間には対応関係があり、一般化された環境認識が反応を規定する可能性が示唆された。 景観に対する心理・生理的反応のパターンは、被験者の成長環境が都市部、農村部にかかわらず、定性的には類似する傾向を示していたが、反応の大きさという定量的な部分については差異が見られた。この差異は測定項目によっても異なり、言語的な評価は成長環境の影響が大きいのに対して、非言語的、身体的な反応は成長環境の影響が小さいという傾向が示された。これらの知見を活かして来年度はより大きな成長環境、文化的な差異を検討するため、日本人と外国人の間で景観に対する反応を比較する予定である。
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