本年の研究としては、未だに歴史的・造園史的な価値・評価も定まっていない明治期東京の邸宅庭園を対象とし、明治期の地形図による網羅的な分析から、庭園の成立形態や構成に関する定量的知見を得ることとした。 分析対象とした明治16-17年(1883-84)の測量図から、所有者名が記された邸宅庭園は、144庭園が確認できた。次に144庭園の江戸期から明治期に至る土地の所有形態の変化を調査したところ、明治期に至る土地の継承形態は、(1)同一型、(2)分割型、(3)統合型の3つに類型化でき、ほぼ全てが江戸期には武家地であったことが確認できた。また144庭園の立地形態は、(1)崖線型、(2)台の端型、(3)平地型の3つに類型化でき、庭園の構成としては、(1)池、(2)築山、(3)芝生の3要素が大きな特徴となっており、特に芝生については、立地形態に関係なく多くの庭園に使用されており、「芝庭」が明治期庭園の特徴的な意匠である、という従来の通説を裏付けることが出来た。また144庭園の明治末期における残存状況を調査した結果、消滅・改変されたものは、101庭園にも及んでいたことが明らかとなった。 以上の考察から、明治期東京における邸宅庭園の歴史的・造園史的価値としては、以下の3つの側面が検証された。 I.庭園の連続性:江戸期の武家地を前身とし、明治期には江戸期の土地の区画に変化を伴いつつも、その立地形態は江戸期の庭園を継承した可能性が高いこと。 II.東京の地域性:立地形態は、3類型(崖線型・台の端型・平地型)に大別されたこと。また眺望(崖線型・台の端型)、池(崖線型)など、東京の地形状況(地域性)を十分に活用した庭園が多数確認できた
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