研究概要 |
トマトモザイクウイルス(ToMV)の移行蛋白質(MP)に結合する蛋白質(MP-interacting protein : MIP)のcDNAとして,2種の転写コアクチベーターに相当するMIP102(KELP)とMIP204(MBF1)および新規遺伝子に相当するMIP105およびMIP106を得た。欠失変異体を用いた結合実験の結果、MIP102ではN末端側約半分の領域が、MIP105及びそのシロイヌナズナホモログAtMIP105ではC末端側約半分の領域が、MIP204では中央部又は全体の領域が、MPとの結合に必要であることがわかった。次に、抗ウイルス蛋白質として利用できるかどうかを調べる目的で、MIP102、AtMIP105及びMIP204のMP結合領域を発現するプラスミドを、緑色蛍光蛋白質(GFP)をレポーターとするToMVの感染性DNAクローンと共に、パーティクルガン法によりNicotiana benthamianaの葉に導入した。GFPの蛍光の拡がりを指標として、ToMVの細胞間移行の様子を解析した結果、MIP102を用いた場合にのみ、ウイルスの細胞間移行が阻害されることが明かとなった。そこで、アグロバクテリウム法により、MIP102及びMIP204のMP結合領域を過剰発現する形質転換タバコの作出を試み、それぞれ133個体及び35個体の形質転換体を得た。MIP102のMP結合領域を過剰発現する一部の形質転換体においては、ToMV感染後にウイルス接種葉及び非接種上位葉での外被蛋白質の蓄積が検出されず、導入遺伝子の影響によりウイルスの移行が阻害されたと考えられた。MIP204の場合は、内在性のMIP204遺伝子の発現量が多く、非形質転換体よりも過剰発現している個体は得られなかった。逆に、MIP204の蓄積量が減少している個体が見つかったが、ToMVの細胞間及び全身移行には差が見られなかった。MIP102の例は、従来のようにウイルス遺伝子自身を導入するのではなく、植物自身の遺伝子を利用して新しいタイプのウイルス抵抗性植物を作出する可能性を示すものとして注目される。
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