研究概要 |
1.腸に定着する細菌の人工定着法の確立 桑葉で飼育した腸内から単離されたEnterobacter cloacaeを用いて人工的に無菌カイコ腸内に定着させる方法を,人工飼料組成,投与条件について検討した.結果,5齢脱皮以降,抗生物質を含まず,飼料中のクエン酸をクエン酸カリウムに置換することによって,水素イオン濃度を中性付近に調整した人工飼料を用いて飼育し,5齢1日にマイクロシリンジで経口投与することにより,全てのカイコは従来の無菌カイコと同様に生育し,同時に排泄した糞からはEnt. cloacae菌体を確認できた. 2.腸内定住菌がカイコに及ぼす影響の検討 上記の条件によって人為的に無菌カイコ腸内にEnt. cloacaeを定着させた場合(R区)と,体腔中に注射した場合(I区)の実験区と対照区として無菌カイコを用い,体液タンパク質の変化をTricine-PAGEによって比較調査すると共に,特に,カイコの生体防御に注目し,体液中の大腸菌の生育阻止活性(セクロピンをはじめとする抗菌タンパク質の誘導)を阻止円法で,リゾチウム活性をM. lysodeikticus菌体の分解を分光法で,酸性フォスファターゼ活性(血球細胞反応の生化学的指標)はp-nitrophenyl phosphateを基質として分光法をもちいて検討した. I区では,全ての調査した活性の上昇と,分子量14.4,10.6,3.7kDaタンパク質バンドの染色度の上昇が認められた.一方,R区では大腸菌の生育阻止活性誘導は認められなかったものの,リゾチウム活性,酸性フォスファターゼ活性の上昇と,分子量14.4,10.6kDaの染色度の上昇はI区よりも,処理後遅れて弱い変化として見出された.このことからカイコ腸内に細菌が定着することにより,カイコに生理的な変化をもたらす可能性を明らかにした.
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