研究概要 |
アーバスキュラー菌根共生系におけるリン酸の獲得・濃縮・輸送のメカニズムを解明する目的で、共生特異的に宿主の根から分泌される酸性ホスファターゼの全長cDNAの塩基配列決定および遺伝子発現解析を行った。 1.共生特異的酸性ホスファターゼの全長cDNA塩基配列の決定 精製された共生特異的酸性ホスファターゼのN末端アミノ酸配列15残基を基にPCRプライマーを設計し、3'/5'RACE法によりcDNA(TPAP1)の全長塩基配列を決定した。TPAP1は,1,836bpからなり,N末端部分に34残基のシグナルペプチドを含む466残基のアミノ酸をコードしていた.また,TPAP1の5'端非翻訳領域は,同遺伝子の3'端非翻訳領域と相補的な40塩基ほどの配列を有していた.この3'端および5'端の相補配列は、TPAP1遺伝子の翻訳調節に関与していることが推察されるものの、そのメカニズムについては現在のところ不明である。 2.共生特異的酸性ホスファターゼの活性検出とTPAP1遺伝子の発現解析 oligo dTプライマーおよびリボソーム遺伝子特異的プライマーを用いて逆転写反応を行い、RT-PCRとそれに続くサザンハイブリダイゼーションにより,TPAP1断片の増幅カイネティックスを求め,菌根形成によるmRNA発現量の変化を調べた.このとき,宿主のリボソーム遺伝子に対するRT-PCRの増幅カイネティックスを同時に求め,それに基づいて処理区間の鋳型量の差を補正した.一方,根からの浸出液および磨砕液から粗酵素液を調製し,電気泳動後にホスファターゼ活性染色を行った.菌根形成により分泌型酸性ホスファターゼの活性は大きく上昇するものの,mRNA発現量の増加はわずかであった.このことから菌根形成による本酵素活性の上昇は,転写後調節のメカニズムが関与している可能性が示唆された。
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