細菌は2種(PrfA、PrfB)の、終止コドン認識の異なる[それぞれ(UAA、UAG)、(UAA、UGA)]ペプチド鎖解離因子を持つ。申請者が既に新規に取得しているprfB変異株では37℃で胞子形成率が低下し、同時に胞子形成開始に必須なsigma-H蛋白質の半減期が野生株に比べ短くなっていた。このときsigma-H蛋白質は活性化の中間段階である巨大複合体の状態のみ検出された。prfB変異株のin vivoにおける翻訳のリードスルー率を測定したところ、30℃よりも37℃でその率が上昇していた。またこれはリードスルーの率をさげるリボゾーム蛋白質の変異により抑圧され、同時に胞子形成も回復した。PrfBは翻訳時にフレームシフトが起こる事に困り、完全長の産物が生成される。このフレームシフトはPrfBのコドン認識機能が関与する自己制御と考えられている。PrfBにFLAGエピトープタグを付加し、細胞内のPrfBの量をウエスタン法で解析したところ、PrfB変異株では37℃においてPrfBが高生産されており、リードスルーと共にフレームシフトも起こっていることが分かった。この時同様にエピトープタグを付加したPrfAの量に顕著な差はみられなかった。従ってこれらのことより、prfB変異株ではリードスルー率が上昇することで、sigma-Hが不安定化し胞子形成開始が阻害されているとが考えられた。また、prfB変異の胞子形成復帰サプレッサー変異は、RNAポリメラーゼのβサブユニトをコードするrpoB遺伝子に起こった。このことは、sigma-Hの翻訳終結と、RNAポリメラーゼのホロ酵素形成がなんらかの形で共役している事を示唆する。現在、細菌細胞内で蛋白質の分解、安定に関与するClp蛋白質や翻訳後調節蛋白質等、種々の蛋白質にエピトープタグを付加し、sigma-H蛋白質複合体への関与を解析している。
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