細菌は2種(PrfA、PrfB)の、終止コドン認識の異なる[それぞれ(UAA、UAG)、(UAA、UGA)]ペプチド鎖解離因子を持つ。申請者が既に新規に取得しているprfB変異株では37℃で胞子形成率が低下し、同時に胞子形成開始に必須なsigma-H蛋白質の半減期が野生株に比べ短くなっていた。prfB変異株のin vivoにおける翻訳のリードスルー率、フレームシフト率をそれぞれlacZ活性及びフレームシフトにより完全長の生成されるPefBタンパク質を指標にし観察したところ、ともに温度に依存して上昇していた。またこれはリードスルーの率をさげるリボゾーム蛋白質の変異により抑圧され、同時に胞子形成も回復した。従ってこれらのことより、prfB変異株では温度上昇にともないリードスルー率が上昇することで、sigma-Hが不安定化し胞子形成開始が阻害されていることが考えられた。温度のシフトアップ・ダウンがprfB変異株の胞子形成に与える影響を調べたところ、胞子形成のごく初期が温度感受性であることがわかった。この時期はまさにsigma-Hの安定・活性化の時期と呼応している。また、prfB変異の胞子形成復帰サプレッサー変異は、RNAポリメラーゼのβサブユニトをコードするrpoB遺伝子に起こった。このことは、sigma-Hの翻訳終結と、RNAポリメラーゼのホロ酵素形成がなんらかの形で共役している事を示唆する。同様に胞子形成の温度感受性を示すと報告のあったprfB1変異(Karow et al. J. Bacteriol. (1998)180:4166-4170.)を同様に解析している。この変異部位はC末端にあるが申請者の変異はそれよりN末端よりのコドン認識に関わるとされる領域にある。
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