1.ユビキノン欠失植物の解析 前年度AtPPT1遺伝子欠損株の分離比から、本遺伝子が植物の胚発生に必須であることが示唆された。そこで本年度は、既に単離してあったatppt1変異株の解析を進めた。すなわちこの変異株のヘテロ欠損体にさらにもう1分子AtPPT1遣伝子を導入することで、内在性のAtPPT1遺伝子をホモ欠損している個体が得られるかどうかを検討した。この際、遺伝子導入にはグルココルチコイドの一種であるデキサメタゾン(DEX)により誘導可能なベクターを用いて、DEX存在下での分離比の変化を調べた。その結果、次世代でのこの致死的な表現型が相補された場合の分離比である、薬剤耐性:薬剤感受性=3:1に近い個体を得ることができた。現在これら個々の個体を用いたPCRによる、ホモ個体の確認を進めると共に、DEXを除去した場合に見られると考えられる、成長途中の植物体に対するAtPPT1遺伝子の役割について検討していく。 2.AtPPT1遺伝子高発現植物の解析 上記1でも利用したAtPPT1遣伝子の高発現用コンストラクトを用いて、野生株ws株を形質転換し、AtPPT1遺伝子高発現植物を作成した。その結果、DEX濃度依存的にAtPPT1遺伝子の転写レベルが増加する高発現体植物を得た。これらの個体はDEX依存的に成長の著しい阻害を示すが、その原因がDEXベクターによるものなのか、AtPPT1遺伝子の高発現によるものなのかについて、現在のところ明らかではない。一方、高発現体において、原核生物同様にユビキノン合成量の増加が見られるかを確かめるために、内生ユビキノン量の定量を行った。その結果、高発現体ではユビキノン含量がむしろ減少する傾向が見られた。このことから、高発現体の成育阻害がユビキノン含量の低下による可能性もでてきた。 これらの実験結果をもとに、高等植物においてもユビキノンは発生段階で重要な機能を果たしており、またその生合成は単一酵素の高発現のみでは影響されない制御が存在することを示す論文の作成を現在進めている。
|