ピコリン酸によるアポトーシヌ誘導の作用機構を解明していくにあたり、ピコリン酸がニコチン酸の構造異性体である点、必須アミノ酸であるトリプトファンから、NADが生合成される過程において副次的に生じる生体成分である点、NADを基質とするポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)が、様々なアポトーシス誘導過程において、caspaseにより限定分解される点等から、特に、ポリ(ADP-リボシル)化を始めとするNAD代謝との関連性に着目し検討を行ったところ、以下に示す研究実績が得られた。 まず、細胞内NAD量を測定したところ、アポトーシスの進行に伴い、NADの減少が認められた。また研究者の従来までの検討により、様々なアポトーシス誘導過程において、PARP阻害剤処理により、DNAラダーが認められるにもかかわらず、アポトーシスに特徴的な形態変化は阻害されるという現象を認めているが、ピコリン酸誘導アポトーシスの場合、このようなPARP阻害剤による影響は認められなかった。そこで、フローサイトメトリーによるポリ(ADP-リボシル)化の解析法を確立し測定を行ったところ、エトポシド等の一般的なアポトーシス誘導においては、処理直後10分以内で急激な活性化が認められたが、ピコリン酸誘導の場合は認められなかった。しかし、一般的に報告されているように、いずれの処理においても、PARPの限定分解が認められた。また同様にミトコンドリアの関与、caspaseの活性化についても認められた。すなわち、ピコリン酸誘導アポトーシスにおいては、その進行とともにNADが減少するにもかかわらず、PARPの活性化は認められず、PARP阻害剤による形態変化における影響もなく、NAD代謝の寄与は少ないことが予想され、従来報告されているアポトーシス誘導とは、その作用機構が異なる経路を経て進行することが示唆された。
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