NADとNADPは酸化還元反応に関与する補酵素であり、還元型NAD(NADH)は各種の基質を酸化するエネルギー獲得反応(異化)に関わるのに対して、還元型NADP(NADPH)は合成反応における還元反応(同化)に関わる。従って、NADP・NADPHの合成と分解機構を詳細に研究することにより、生体内の異化・同化制御に関する知見を得ることができる。そこで、本研究ではNADP・NADPHの合成と分解に関する知見を得ることを目的とした。 まず、NADPの生合成に関わるNADキナーゼに着目した。既に、Micrococcus flavusと結核菌由来ポリリン酸依存型NADキナーゼの精製と一次構造決定を完了していたので、本研究では、大腸菌、及び酵母由来ATP依存型NADキナーゼの精製と一次構造決定を行った。大腸菌NADキナーゼの酵素科学的諸性質を特に詳細に検討したところ、本酵素活性はNADH・NADPHによってアロステリックに阻害されること、本酵素はNADHリン酸化活性(NADHキナーゼ活性)を示さないこと、大腸菌の細胞抽出液中にNADHキナーゼ活性が検出されないことを明らかにした。即ち、大腸菌においては、NADH・NADPHがNAD生合成の制御分子として機能しており、NADH自身がリン酸化されてNADPHに変換されないことを明らかにした。一方、M.flavusの細胞抽出液中にはNADHキナーゼ活性が検出された。これは本活性の細菌における初めての検出例であった。更に、カラムクロマトグラフィー分析により、NADHキナーゼ活性はポリリン酸依存型NADキナーゼのみによって示されることを明らかにした。即ち、M.flavusにおいては大腸菌の場合と異なり、NADHはNADP生合成の制御分子でなく、NADPH生合成の基質として機能することを明らかにした。 次に、NADP分解に関する知見を得るため、大腸菌由来NADキナーゼを用いて、NADと放射性[^<32>P]-ATPから、放射性ラベルされた[2'-phospho-^<32>P]INADPを調製し、これをDowexカラムで単離・精製した。[2'-phospho-^<32>P]NADPと、大腸菌の細胞抽出液とを反応させ、反応産物を薄層クロマトグラフィーで分析したとこる、大腸菌におけるNADPの分解には、NADPピロフォスファターゼとNADPフォスファターゼの関与が示唆された。
|