生体内NADPレベルは、NADをリン酸化してNADPを生合成するATP特異型NADキナーゼと、NADPを脱リン酸化してNADとリン酸を生成する細胞質性NADPフォスファターゼ(NADPase)によって制御されている。しかし、細胞質性NADPaseの精製例がないため、生体内NADPレベルの制御機構は全く未知であった。一方、自然界には、ATP特異型NADキナーゼの他に、ATP以外にポリリン酸を利用するポリリン酸/ATP-NADキナーゼ(P/A-NK)も存在する。ポリリン酸は原始地球下で容易に生成し得たため、両NADキナーゼの構造生物学的研究を通じて、ポリリン酸からATPへ至る生体エネルギー担体の化学進化過程と、それに連動したであろうタンパク質・遺伝子の進化過程に関して重要な知見が得られると予想される。以上の背景に基づき、本申請研究では(1)細胞質性NADPaseの精製とその酵素科学的性質の決定、並びに(2)P/A-NK立体構造の決定を目的として研究を行い、以下の実績を得た。(1)細胞質性NADPaseの精製とその酵素科学的性質の決定:土壌分離菌Arthrobacter sp.KM株の細胞抽出液より、2種類のNADPase(NADPaseI、NADPaseII)を精製し、両酵素の酵素科学的性質を決定した。両酵素共に、人工基質p-ニトロフェニルリン酸に対して強く作用した。しかし、生体関連物質の中では、NADPとNADPHに対して良好に作用したため、両酵素は、これまでに正体不明であった細胞質性NADPaseであることが判った。(2)P/A-NK立体構造の決定:P/A-NK、並びにその重原子同型置換体のX線回折データの処理を終了した。そして、得られたデータに基づき、P/A-NKアポ型立体構造のモデリングを開始した。現在、モデリングが進行中であり、P/A-NKの概略的な立体構造を得た。
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