大腸菌のsuf遺伝子領域には、sufA、sufB、sufC、sufD、sufS、sufEの6つのORFが存在する。これらの遺伝子産物は、鉄の取り込みや鉄-硫黄クラスターの形成において重要な役割を果たしていると考えられている。システインデスルフラーゼであるSufSについては、諸性質を明らかにし、X線結晶構造解析により、ネイティブ酵素および基質アナログであるプロパルギルグリシン-酵素複合体の立体構造解析を行った。その結果、プロパルギルグリシンは、補酵素であるピリドキサール5'-リン酸とシッフ塩基を形成しており、本酵素の酵素外シッフ塩基中間体の特徴が初めて明らかとなった。また、Thermotoga maritimaのシステインデスルフラーゼであるtmNifSとの比較から、SufSのアミノ酸残基362番-375番から成る突出構造のフレキシビリティーが制限されているために、本酵素はセレノシステインに対して高い活性を示し、システインに作用しにくいものと考えられた。その他の遺伝子産物についても生化学的な解析を行うことを目的として、まず、SufA、SufB、SufC、SufD、SufE各々の大腸菌における発現系の構築を行った。各遺伝子産物のC末端側にヒスチジンタグを付ける系として、pET21a(+)を用いたペクター構築を行った。構築した各ペクターを大腸菌に導入して発現の確認を行ったところ、全てにおいて可溶性画分に組換えタンパク質の生産が認められた。これらをニッケルキレートカラムにて精製し、諸性質を調べた。SufAは補因子を持たないアポタンパク質として精製されたが、鉄-硫黄クラスターを含有する可能性が考えられた。そこで、グローブボックス内で嫌気環境下にてFe(NH_4)_2SO_4およびNa_2SとアポSufAをインキュベーションしたところ、340nm付近の吸収の増加が見られ、茶色を呈し、鉄-硫黄クラスターが再構成されたことが示唆された。
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