吸血性ダニ唾液腺より見い出した7種のKunitz型プロテアーゼ阻害剤について昆虫細胞および大腸菌にて大量発現を試みた。その結果、昆虫細胞を用いた系では良好な結果が得られなかったが、大腸菌による系により、全て発現することに成功した。発現した全ての組み換え型タンパク質を精製し、正常ヒト血漿をもちいて抗凝血活性を測定したところ、1種のKunitz型プロテアーゼ阻害剤に顕著な抗凝血活性があることを見い出した。さらにこのKunitz型プロテアーゼ阻害剤はActivated Partial Thrombin Time (APTT)およびProthrombin Time (PT)のいずれも延長したことから、血液凝固系の内因および外因系の両方を阻害することが明かとなった。APTTおよびPT測定の結果からAPTTの方に強く作用することが判明したので、血液凝固内因系の標的プロテアーゼの同定を試みた。まず内因系に関与する全てのプロテアーゼとその合成基質を用いて阻害活性測定を行った結果、いずれのプロテアーゼ活性も阻害しないことが確認された。次に全てのプロテアーゼとの相互作用を表面プラスモン共鳴法により測定した結果、Zn^<2+>存在下でのみXII因子と特異的に相互作用することを明かとした。さらにこの相互作用はXII因子の活性化に依存しないことおよびZn^<2+>濃度依存的に起こることを確認した。また生体内でXII因子は痛みの原因となるブラジキンの産生に関与することから、試験管内でブラジキニン産生の再構成系を確立し、その影響を調べた。その結果、阻害剤の濃度依存的にブラジキニンの産生抑制が確認され、生体内で痛みを抑制する可能性を示唆した。以上のような特性を持つ阻害剤はこれまで報告された例がなく、興味深い結果であった。現在、血液凝固外因系に対する阻害機構について検討を行っている。
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