ホタルのルシフェラーゼは、ルシフェリンとMgATPおよび酸素を用いて発光反応を触媒する。本触媒反応では、ルシフェリンとMgATPが反応してルシフェリルアデニレート中間体が酵素中で形成され、その酸化によって生じたオキシルシフェリンが励起状態から基底状態に移るときに発光が観測される。本野生型酵素の発光は黄緑色であるが、S286N変異導入により発光色はオレンジ色に変化する。これまでに、発光反応後の酵素の結晶化により酵素-オキシルシフェリン-AMP複合体を捉えることに成功し、本酵素の活性部位を同定している。反応中間体アナログを捉える目的で、本酵素をデヒドロルシフェリン(基質アナログ)およびMgATPと反応させて結晶化することを試み、結晶を得ることができた。しかし、X線解析の結果、デヒドロルシフェリンとAMPが分かれて観測され、中間体アナログを捉えることはできなかった。今回、中間体アナログであるスルファモイルアデノシルデヒドロルシフェリン(SLU)を合成し、これと野生型およびS286N変異酵素との共結晶化をそれぞれ試みた。沈澱剤としてPEG4000を用い、ハンギングドロップ蒸気拡散法によりそれぞれ結晶を得た。SPring-8のビームラインBL45PX、BL44B2で回折強度データを収集し、野生型、変異型酵素に対してそれぞれ1.35、1.45Å分解能の回折強度データを得た。構造解析の結果、いずれの構造でもSLUの電子密度が観測された。しかし、野生型および変異型酵素それぞれの活性中心近傍のアミノ酸残基およびSLUの構造を比較した結果、大きな変化は見出されなかった。活性中心の環境(例えば水素結合ネットワーク)のほんのわずかな違いが発光色変化と関係する可能性が考えられた。
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