膜蛋白質や分泌蛋白質などの分泌系蛋白質の多くはアスパラギン結合型(N型)糖鎖が付加している。この糖鎖構造は多種多様であり、外からの刺激などにより劇的に構造変化する現象は昔から知られているが、糖鎖の持つ生物学的意義はまだあまり解明されていない。N型糖鎖の生合成に関与する酵素に変異のある遺伝病の多くは神経疾患であることから、N型糖鎖は脳・神経組織の形成・維持・管理に重要な役割を果たしているものと考えられる。そこで、マウス脳由来の蛋白質より様々なN型糖鎖のプローブを用いてN型糖鎖結合蛋白質のスクリーニングを行ったところ、ユビキチンリガーゼの基質認識ユニットであるF-box蛋白質NFB42/Fbx2を単離した。そこで、Fbx2を含むSkp1-Cullin1-Fbox複合体(SCF複合体)が実際にN型糖鎖を認識してリガーゼ活性を有することを試験管内の再構成系を用いて明らかにした。Fbx2が認識する糖鎖構造を種々の糖蛋白質糖鎖を用いて解析した結果、小胞体で合成される高マンノース型糖鎖であった。さらに、細胞内におけるFbx2の基質蛋白質を同定したところ、その中の一つがインテグリンβ1サブユニットの前駆体であることが判明した。Fbx2とインテグリンβ1の結合の場は細胞質であり、細胞質中でユビキチン・プロテアソーム系により分解に導くことを示した。小胞体では分泌系蛋白質の立体構造形成が行われるが、余剰サブユニットやフォールディングがうまくいかなかった蛋白質が細胞質へ排出されプロテアソームによる分解を受けることが知られている。このシステムは小胞体関連分解(ERAD)と呼ばれているが、SCF(Fbx2)はERAD経路における糖蛋白質認識ユビキチンリガーゼであることを突き止め、N型糖鎖が細胞質内では分解シグナルとして機能しているという、糖鎖の新しい機能を明らかにした。
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