マウスACS4遺伝子の一部を用いてターゲティングベクターを構築し、ACS4を欠損するES細胞を得た。このACS4欠損細胞を用いてキメラマウスを作製し、さらにF1雌ヘテロ接合体を得た。このF1雌ヘテロ接合体は形態、成長及び行動は正常であったが、ヘテロ接合体からF2世代への変異アレルの伝達に異常が認められた。すなわち、キメラマウスとF1雌ヘテロ接合体を交配して得られたF2世代の遺伝型のほとんどは野生型で、ヘテロ接合体は僅か、ヘミ及びホモ接合体は全く得られなかった。また、出産個体数も通常の約半分に減少していた。すなわち、ACS4は雌の生殖機能に重要な役割を果たしていることが強く示唆された。また、雌ヘテロ接合体の組織学的解析では、子宮の肥大と子宮内における大きな空胞が観察され、雌ヘテロ接合体の子宮内のプロスタグランジン濃度を測定した所、正常マウスと比較して著しく高い値を示した。これらの結果はACS4がプロスタグランジン生成の調節を通して、子宮の発達に重要な役割を果たしている事を示唆した。一方、HCG(繊毛性性腺刺激ホルモン)やPMSG(妊馬血清性性腺刺激ホルモン)などの性腺刺激ホルモンを投与したF1雌ヘテロ接合体とキメラマウスを交配させると希に雄ヘミ接合体、すなわちACS4欠損(ACS4KO)マウスを得られることが明らかとなった。このACS4KOマウスは発生及び形態的に正常で、生殖能力にも異常は見いだせなかった。ACS4KO雄マウスと野生型雌マウスとの交配ではメンデル則に従った遺伝型を持つマウスを得られたが、雌ヘテロ接合体との交配ではほとんどが野生型で、ヘテロ接合体は僅か、ヘミ及びホモ接合体は全く得られなかった。この結果は、キメラマウスとF1雌ヘテロ接合体を交配した場合と同様の結果であることから、雌ヘテロ接合体の子宮内においてヘテロ又はホモ接合体の胎児のみが選択的に発達異常を起こしていることが示された。また、ACS4の欠損は雄には何の影響も与えないことが明らかとなった。
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