生体内の最も重要な抗酸化物質の一つであるα-トコフェロールの血中や諸組織への供給量は、肝臓に存在するα-トコフェロール輸送タンパク質(α-TTP)量によって規定されると考えられている。本研究ではα-TTP合成量の変動要因を解明することを最終目的として、まずα-トコフェロールの過剰摂取に応答したα-TTP合成量の変動について解析を行った。ラット初代培養肝細胞の培地に0-20mg/Lのα、δ、γ-トコフェロールを添加して0-24時間培養後のα-TTP mRNA量およびタンパク量の測定を行った。その結果、培地中のトコフェロール濃度の変化に応答したα-TTP合成量の変化は観察できず、細胞内外のトコフェロール濃度はα-TTP合成量の直接の制御要因ではないと考えられた。 次に、血中、組織中α-トコフェロール濃度の変化を生じるさまざまな病態あるいは栄養欠乏動物における肝臓α-TTP mRNA量、タンパク量を解析した。その結果、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病動物において、α-TTP量が大幅に減少することが示された。そこで次に、ラット初代培養肝細胞を用いて、糖尿病時にα-TTP量の減少をひき起こす要因について検討を行った。その結果、培地へのインスリン添加濃度が10^<-8>Mから10^<-10>Mに低下すると、初代培養肝細胞中のα-TTP量が減少した。STZ誘発糖尿病動物では、膵臓β細胞の損傷により血中インスリン濃度が検出限界以下まで低下していることと合わせて考えると、このインスリン濃度の低下が肝臓α-TTP量の減少をひき起こす要因である可能性が示された。糖尿病動物や低インスリン状態の肝細胞におけるα-TTP量の減少はα-TTP mRNA量の減少を伴っておらず、翻訳以降の段階で生じるものと考えられた。また、インスリン濃度の減少に応答したα-TTP量の減少には12時間必要であった。細胞にシクロヘキシミドを添加して新たなタンパク合成を停止させ、α-TTPの半減期を解析したところ、インスリン無添加の培養条件では、インスリン添加時に比べてα-TTPの半減期が減少しているという結果が得られた。 本研究の結果から、肝臓におけるα-TTP量は生理的濃度のインスリンの存在により安定化されており、低インスリン状態の継続によりα-TTP量の減少がひき起こされる可能性が強く示された。
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