成体および胎仔BALB/cマウスより小腸上皮細胞の初代培養を行った結果、胎生15日目の胎仔由来小腸組織片からの上皮様細胞の増殖が最も良好であった。さらに卵白アルブミン(OVA)特異的T細胞レセプターを発現するトランスジェニックマウスから精製した脾臓および小腸上皮内リンパ球由来CD4陽性T細胞を、小腸上皮細胞と抗原(OVAペプチド)とともに培養した結果、T細胞の増殖応答が認められたことから、胎仔小腸上皮の初代培養細胞が抗原提示能を有することが明らかとなった。 次に、小腸上皮細胞の増殖活性を亢進することが期待される活性化型β-カテニン遺伝子の発現ベクターを構築した。細胞内分解と活性調節に重要なN末端数十残基を除去した活性化型β-カテニンは、細胞内で安定に存在し、細胞増殖などの機能に関与すると考えられる。野生型マウスβ-カテニンcDNAを鋳型としたPCR法を用いてN末端を欠失した翻訳領域を増幅し、哺乳動物細胞発現ベクターに挿入して、活性化型β-カテニン発現ベクターを得た。同様に、活性化型β-カテニン遺伝子を発現するレトロウイルス発現ベクターも構築した。 リポフェクション法およびエレクトロポレーション法を用いて胎仔小腸上皮の初代培養細胞への活性化型β-カテニン遺伝子の導入を試みたが、細胞増殖活性は亢進されなかった。これは、遺伝子導入のリポーターであるGFP遺伝子の発現が認められないことから、遺伝子導入が不完全であったためと考えられた。一方、レトロウイルス発現系を用いて活性化型β-カテニン遺伝子を導入した結果、GFPを発現する上皮細胞が非常に低い頻度で観察された。しかし、これらの細胞においても増殖能の冗進は認められず、活性化型β-カテニンの発現を制御するプロモーターの選択、あるいは小腸上皮細胞の増殖能を亢進しうる他の遺伝子の導入についても考慮する必要があると考えられた。
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