本研究により、胎仔BALB/cマウスから小腸上皮細胞(IEC)を初代培養する方法を確立した。この方法は、EDTA溶液により処理を行った胎仔小腸組織片より増殖してくるIECを培養するもので、胎生15および16日目の胎仔小腸組織片からの上皮細胞の増殖が最も良好であった。 次に、IECの増殖活性を亢進することが期待される活性化型β-カテニン遺伝子を、ヒト伸長因子1αサブユニットのプロモーター下流に挿入した発現ベクターを構築した。リポフェクション法およびエレクトポレーション法を用いて胎仔由来初代培養IECへの活性化型β-カテニン遺伝子の導入を試みたが、細胞増殖活性を維持したクローンの単離には至らず、細胞株を得ることは出来なかった。現在、SV40ウイルス由来のラージT抗原遺伝子の導入実験を行っている。 一方、得られたマウス胎仔由来初代培養IECにおける免疫担当細胞としての特性についても解析を行った。培養開始2週間後、初代培養IECにおいて成熟マーカーと考えられるアルカリフォスファターゼ活性とMHCクラスII分子の発現が認められた。このMHCクラスII分子の発現は、培地中へのインターフェロンγの添加によって強く増強された。さらに、卵白アルブミン(OVA)特異的T細胞レセプターを発現するトランスジェニックマウスから精製した脾臓および小腸上皮内リンパ球由来CD4陽性T細胞に対し、抗原提示能を有することが明らかとなった。一方、初代培養IECの共存により、通常の脾臓CD4陽性T細胞の抗原特異的な増殖が抑制されることも示した。 また、腸管免疫系に重要な影響を与えることが示唆されている微生物に対するIECの応答についても析を行った結果、初代培養IECが微生物由来物質を認識する受容体を発現していること、大腸菌およびリポ多糖に応答して、様々なサイトカイン遺伝子の発現が上昇することを明らかにした。
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