研究概要 |
癌細胞の浸潤過程は癌細胞の正常細胞や基底膜への接着,基底膜成分の破壊,細胞層を横切る運動の3段階からなっていることが知られている。抗酸化性を有する食品因子が癌細胞浸潤を共通して抑制することから,活性酸素種はこれら3つの段階に影響し,癌細胞浸潤を促進しており,抗酸化性食品因子はその過程を抑制しているものと考えられる。そこでまず,癌細胞の接着段階への影響を観察するため,モデル癌細胞であるラット腹水肝癌AH109Aと正常細胞として腸間膜由来中皮細胞を用いて活性酸素種の処理による接着能の変化を解析したところ,変化が見られなかった。次に,基底膜の破壊にかかわるマトリックスメタロプロテアーゼ活性への活性酸素種の影響を調べたところ,活性酸素種の処理により,培地中のMMP-2の活性は変化しないことが明らかとなった。最後に癌細胞の運動能への効果を解析するため,すでにAH109Aで発現していることが確認されているmotility factorであるHGFの遺伝子発現に対する活性酸素種の影響を解析した。HGFmRNA量は活性酸素で2時間処理することにより,約2倍に増加しており,また培地中に分泌されたHGF量をELISAで測定した際にも,分泌量の増加が確認された。HGFの受容体である。c-metがAH109Aで発現していることはすでに確認しているので,産生されたHGFはAH109Aに対してautocrineに作用しているものと予想される。以上の結果から活性酸素種は癌細胞の運動能を促進することにより浸潤能を冗進していることが明らかとなり,その促進作用は癌細胞自身が産生するmotility factorを介して起きていることが明らかとなった。今後,この現象に対する抗酸化性食品因子の作用を詳細に解析していく予定である。
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