研究概要 |
天然林に隣接する人工林では,天然林からの種子の供給があるため,供給される種子の種類と量は天然林の場合と大差ないと予測される。両林分では,林床植生だけでなく埋土種子集団の種組成にも顕著な差異はあるのだろうか。林床の状態と撹乱体制が全く異なる2つの林分において,林床植生と埋土種子組成を比較した。 森林植物の種多様性を評価するために,三重大学演習林の天然生ブナ林およびヒノキ人工林において,20m×15mの調査プロットを各1個設置し,植生調査を行った。埋土種子の種多様性を評価するために,各方形区から土壌サンプルを48個ずつ採取した。これに5℃で2ヶ月間の低温湿層処理を施し,土壌サンプル別にプランターに播いた。発芽実生を週1回の割合で測定した。 植物種組成と埋土種子種組成をブナ林と人工林との間で比較した。林床植生では,ブナ林で36種が出現しスズタケが優占していた。人工林では109種と多種が出現した。埋土種子の種数では,ブナ林と人工林ともに40種が出現した。埋土種子の出現本数では,ブナ林の619本に対し,人工林では341本と少なかった。特に木本についてみると,ブナ林542本,人工林124本と大きな開きがみられた。埋土種子の木本種について,出現本数と林床における出現の有無を比較した。ブナ林では林床に出現しない種が数多く埋土種子に出現したのに対し,人工林で埋土種子に出現したもののほとんどはその林床に出現する樹種であった。 林床にササを伴う天然林の地表では,暗い光条件下にあるうえに撹乱の頻度も僅かである。そこでは,散布種子の発芽は困難であり,埋土種子の種子数が多くなったと考えられる。人工林において林床管理が行われるところでは,散布種子の発芽が促進されるため,埋土種子に至る割合が低下するものと考えられる。
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