研究概要 |
森林流域からの窒素流出特性と,そのの制御要因としての水文過程に焦点を当て,滋賀県南部の桐生試験地において観測と,過去のデータの解析を行った.この結果以下のことが明らかになった. 1)渓流水のNO_3^-濃度は1993年までの濃度レベルが概ね0.03mmolL^<-1>以下であったのに対し,1994年から1997年にかけて上昇し,それ以後徐々に低下していることがわかった.地下水の濃度も1994年以降それ以前の数倍に上昇していた(Ohte et al. 2001a).この濃度上昇の主たる原因は,1990年から顕著になり始めたマツ枯れの影響であると考えられる.マツ枯れは当該流域の上流部分,面積にして約25%程度の範囲で生じた.注目すべき変動は,1994年から1997年にかけての渓流水の濃度上昇過程である.この間,NO_3^-濃度は,夏に高く,冬に大きな谷になる明瞭な季節変動を示していた.この,夏にピークを持つNO_3^-流出の季節パターンは,マツ枯れの影響を受けたこの流域特有の現象ではなく,日本の森林では,NO_3^-流出量の多い流域の多くは夏季に明瞭なピークを持つ事が指摘された(Ohte et al. 2001b). 2)一般に北東アメリカや,ヨーロッパで多く見られるパターンは,森林植生の成長期(夏季)に濃度減少が見られ,通常,植物による無機態窒素のアップテイクが卓越し,土壌中のプールが小さくなるためであると説明されることが多い.しかしながら,これらの事例が報告されている地域の多くは降雨の季節パターンが冬雨型であることが多く,夏季,渇水による流量の低下が生じていて,土壌中から流域の排水系へのNO_3^-の輸送が減少することも考えなければならない.どちらの条件も夏季にNO_3^-濃度を減少させるセンスで働くため,渓流水中NO_3^-濃度の低下が,植物のアップテイクや微生物による無機化のバランスによるものなのか,水文条件の影響によるものなのかに関する定量的な説明は渓流水の情報だけでは困難である. 3)日本の多くの地域でそうであるように,本流域でも流量は夏季に多く,流域末端の渓流に最も近い部分の地下水位とNO_3^-濃度の季節変化が良く対応していることが示された.
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