森林生態系は従来、窒素を閉鎖的に循環させており、近年増加している窒素を主成分とする酸性降下物により過剰な窒素が森林生態系に供給されると、その循環機構・種の分布に何らかの影響を及ぼすと考えられる。そこで、森林生態系への窒素化合物を含む酸性雨による影響を評価するため、森林生態系の主要な樹種について窒素の利用様式を調査した。これまでの研究により、森林生態系に余剰の窒素が存在すると、土壌中の窒素は硝酸態窒素となることがわかっている。そのため、植物の硝酸態窒素の利用の程度を示す植物体中の硝酸還元酵素活性を調べることによって、その過剰窒素に対する感受性を推察することが可能になる。調査は、酸性雨による窒素化合物の負荷が大きいと考えられる市街地にちかい京都大学農学部附属演習林本部試験地・上賀茂試験地、酸性雨の影響の小さいと考えられる京都府北部の京都大学農学部附属演習林芦生演習林において行った。これらの林分で近畿の森林を構成する主要な樹種である、アラカシ・アカマツ・スギ・ブナ・シデなどを対象とした。これらの葉及び根を調査したところ、アラカシ・ブナなどの広葉樹では、高い硝酸還元酵素活性を示す個体がみられたが、アカマツ・スギには硝酸還元酵素活性はほとんどみられなかった。しかしながら、アカマツ・スギなどの針葉中で、わずかながら硝酸還元酵素活性がみられる場合があり、これは針葉中では硝酸還元酵素はみられないとする従来の研究と異なる。窒素を含む酸性降下物の種分布に及ぼす影響を明らかにするためには、針葉樹に関するさらに詳細な調査が必要と考えられた。
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