研究概要 |
広葉樹の年輪構造指標を用いることにより知見の限られていた日本における過去の気候変動の復元の高精度化を目的として研究を行った。まず第一に,広葉樹環孔材樹種〔ヤチダモ(Fraxinus mandshurica var.japonica);北海道北部3地点〕および散孔材樹種〔ブナ(Fagus crenata);下北半島1地点,ダケカンバ(Betula ermanii);中部山岳1地点〕を対象とし,地点を代表する年輪幅や年輪構造の変動であるクロノロジーを作成した上で,気候要素との関係解析を行った。その結果,ヤチダモの孔圏・孔圏外幅はそれぞれ当年6-8月の気温と高い正または負の相関を示した。ブナの年輪幅は前年夏期の,年輪内最大密度は当年夏期の気温とそれぞれ高い正の相関を示した。一方,分布下限に生育するダケカンバ年輪幅では,夏期の気温と負の,降水量と正の相関を示し,夏期の水ストレスを敏感に反映していると考えられた。樹種や生育条件が異なるにも関わらず3樹種の年輪指標は夏期の気候条件を敏感に反映していることが明らかになった。 さらに,環孔材樹種の孔圏から孔圏外への移行要因を解明するために,ヤチダモを対象として孔圏道管の数や径と孔圏幅,孔圏外幅の関係を統計的に解析した。その結果,孔圏幅は主に形成される孔圏道管の数によって変動していることが明らかとなった。6月の気温は孔圏幅には抑制的に,孔圏外幅には促進的に作用していたこと,孔圏の形成は7月には終了していることから,孔圏から孔圏外への移行時期の気温が分化する孔圏道管の数に影響を及ぼし,その結果として孔圏幅と孔圏外幅が変動している可能性が示唆された。 以上の結果より,広葉樹環孔材および散孔材樹種の年輪幅や年輪構造はそれぞれ肥大成長時期の気候条件に敏感に反応して変動していることが明らかとなり,これら指標を用いることで,高精度の過去の気候復元が可能となると考えられる。 以上の内容はInternational Conference on the Future of Dendrochronologyおよび2001年度日本木材学会組織と材質研究会・「樹木年輪」研究会にて口頭発表した。また,現在,国際学術誌に投稿中および投稿準備中である。
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