本研究実績の概要は主に以下の5つである。 (1):研究対象である発光魚ヒイラギの共生発光細菌がPhotobacterium leiognathiであることを、16SライボゾーマルDNA塩基配列を解析することにより明らかにした。 (2):共生発光細菌P. leiognathiの発光遺伝子luxAの配列が他の発光細菌のものとは系統的に離れていることを明らかにした。この結果によりヒイラギ共生菌に特異的な核酸プローブの設計が可能になった。 (3):共生発光細菌がヒイラギから定期的に周囲の海水へ排出されていることを明らかにした。特に明け方から日中に掛けて共生菌の排出が著しく、夜間はそれが抑制される傾向があることが判った。この現象は、共生菌の感染直後のヒイラギ稚魚においても見られ、共生菌の増殖が宿主の体内リズムにより制御されている可能性を強く示唆している。 (4):宿主の稚魚が環境中の共生細菌による感染を受けて共生菌を体内に宿すようになるという『水平伝搬仮説』の検証の一環として、ヒイラギ成魚の糞における共生発光細菌の存在を明らかにした。この結果から、ヒイラギの発光器官から共生菌が腸内を経て糞として海水中へ排出されることや、その糞由来の共生菌が次世代のヒイラギへ感染する可能性が強く示唆された。 (5):ヒイラギ稚魚への感染試験において、ヒイラギ発光器官由来のP. leiognathiとは異なる種類の発光細菌を接種しても、感染が成立しないことが判った。特に、ヒイラギと同様にP. leiognathiを共生させるホタルジャコ科魚類由来の共生菌株を用いても、感染が成立しなかったことから、ヒイラギの共生発光における宿主特異性は、いわゆる種レベルの形質よりも詳細な形質が関わっていることが示唆された。
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