前年度に確立したニベの採卵・採精技術を用いて、外来遺伝子のマイクロインジェクションに用いる受精卵を調整した。受精後の卵を経時的にマイクロインジェクションに供試したところ、受精後10分程度の胚盤が形成された直後の卵から受精後30分程度経過した卵が、卵膜の硬化も進んでおらず、使用しやすいことが明らかとなった。これ以降の受精卵は卵膜が硬化し、弾性に富むため、マイクロピペットを卵内に突き刺すことが困難になった。さらに、この発生段階の受精卵にオワンクラゲに由来する緑色蛍光タンパク質(GFP)のRNAを注入したところ、胞胚中期以降から効率よく翻訳されるようになり、蛍光による外来RNAの発現の確認が可能となった。しかし、孵化仔魚では黒色素胞がGFPと極めて類似した蛍光を発することが明らかとなり、これがGFP発現観察の障害となることも確認された。さらに、メダカのβ-アクチンプロモーターにGFP遺伝子を接続し、さらにその下流にウシ成長ホルモンのポリアデニレーション配列を付加した発見コンストラクトをニベ受精卵に導入したところ、一過性のGFP発現が観察された。また、外来遺伝子の発現開始時期は他の遺伝子導入淡水魚類と同様、胞胚中期遷移以降であることが明らかとなった。以上のように、本研究により分離浮遊卵を産出する典型的な海産魚の卵に外来遺伝子をマイクロインジェクション法で導入し、それを発現する方法の基礎を確立した。今後はマダイやヒラメといった類似した受精卵を産出する水産上有用海産魚類に本法を応用していく予定である。
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