有毒渦鞭毛藻Alexandrium属は、異なる二つの接合型を持つ細胞が接合を行い、環境の悪変に対して耐久性を持つ休眠性接合子(シスト)を形成する有性生殖の生活環を有する。シストは、翌年春のプルーム発生の「種集団」として非常に重要視されており、どの様な条件によりシスト形成が誘起・促進されるのか、そのメカニズムを明らかにすることは極めて重要である。 著者は、シスト形成誘起因子として従来全く考慮に入れられていなかった細菌に注目して、本藻のシスト形成に与える影響について解析してきた。その結果、本有毒藻のブルーム発生時の現場細菌群集が、強いシスト形成促進活性を持ち、その動態は本有毒藻の消長と正の相関関係にあることを明らかにした(Adachi et al.1999)。 本年度は、シスト形成促進細菌の生態解明のため、その細菌群集を解明しようとした。まず、分離した細菌の系統解析を試み、これをふまえこれらの特異的検出法についても検討した。その結果、 (1)シスト形成促進細菌の多くは、Proteobacteria α-subclassに属し、Roseobacter属に近縁であること。 (2)一部の株は、Proteobadteria γ-subclassに属し、Pseudoalteromonas属に近縁であること。 (3)詳細に系統解析をおこなった細菌5株は、いずれも新種である可能性が極めて高いこと。 (4)シスト形成促進菌のなかでも優占する可能性が高いと考えられる'リボタイプA'株を特異的に検出するための方法を検討した。まず、蛍光輝度が極めて高い蛍光色素CY3を用いて標識した複数種のプローブを開発した。これらを同時に用いてFISH法をおこなうことにより本株に反応させたところ、その特異的検出は可能であることが示唆された。 以上のことから、本年度の実験によりシスト形成促進菌の群集組成の一端が解明されたといえる。
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