本研究は、赤潮原因藻類の一種、ラフィド藻Heterosigma akashiwoの個体群識別手法の開発並びに赤潮原因藻類の広域化過程の解明を目的として、H.akashiwo分離株K95-Ho、K95-Hy(鹿児島湾産)、NIES-5(三重県五ヶ所湾産)、NIES-6(大阪湾産)の分子識別を試みる。 1 任意増幅多型DNA解析(RAPD)により得られたK95-Hy、NIES-5特異的増幅産物の塩基配列に基づき各分離株に特異的なプライマーを設計し、PCRを行った。その結果、K95-Hy特異的プライマーを用いた場合にK95-Ho、K95-Hy、NIES-6からのみ増幅が確認され、このプライマーが株・個体群識別のSTS(配列標識部位)として有効であることが示された。 2 葉緑体ゲノムDNA上にコードされているリボゾームRNA遺伝子(16SrDNA、23SrDNA)、光合成関連遺伝子(rbcS、rbcL、psbA)の遺伝子領域および遺伝子間領域(IGS)をPCRにより増幅して塩基配列を決定し、株間の多型を検索した。その結果、rbcS-psbA IGSのパリンドローム構造内において、NIES-5株にのみ逆位が認められた。また、この多型領域を認識する制限酵素、DraIを用いてrbcS-psbA IGSのRFLP解析を行った結果、NIES-5株のみ異なるバンドパターンを示し、簡便な識別が可能であることが示された。 3 NIES-5、NIES-6の全DNAを鋳型に、プライマー(CA)_8RG、(CA)_8RYを用いてmicrosatellite-primed PCRを行った。得られた増幅産物の塩基配列を決定したところ、(TA)n、(CTT)nの繰り返し配列を持つマイクロサテライトが見出された。株間でマイクロサテライトの繰り返し回数に多型が認められ、分離株・個体群識別の指標として有用であることが示唆された。
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