研究概要 |
目的と方法:中山間地域で黒毛和種繁殖雌牛を放牧飼養する場合,公共牧場などの牧草放牧地と林地や牧野などの野草地が想定される。そこで本研究では,ネザサ優占野草放牧地およびイタリアンライグラス放牧地に黒毛和種繁殖牛6頭を1日8時間放牧し,採食量および消化率を5月(春)から7月(夏)にかけて各草地で2回ずつ測定した。これらの結果をもとに両草地での養分摂取量の違いとその充足率を比較検討した。 結果: 1.草成分:野草は牧草に比べ,乾物率およびNDF含量が高かった。CP含量は野草と牧草で差がなかったが,SIPとDIP含量は牧草で高く,ADIPとUIP含量は野草で高かった。 2.採食量および消化率:野草放牧地での乾物,CPおよびDIP摂取量はいずれも牧草放牧地に比べ少なかった。また,野草放牧地での乾物,CPおよびNDF消化率はいずれも牧草放牧地に比べ低かった。 3.血液成分:グルコース濃度およびNEFA濃度は両放牧地において差がなかった。BUN濃度は野草放牧地に比べ牧草放牧地において高く,とくに夏の放牧では正常値の上限(20mg/dL)を超えていた。 4.栄養充足率:牧草放牧地でのエネルギーおよびCP摂取量は,日本飼養標準肉用牛(2000)から求めた繁殖牛の要求量を上回っていた。一方,野草地での夏の放牧では,エネルギー摂取量の不足が認められた。また両草地での放牧はともにNRC飼養標準肉用牛(2000)から求めた代謝蛋白質要求量を満たしていたが,牧草地の夏の放牧ではエネルギー摂取量に対してDIPの摂取量が過剰であった。 まとめ:野草放牧地は牧草放牧地に比べ草のNDF含量が高く,採食量が少なくなる可能性が示唆された。一方,牧草放牧地ではエネルギー摂取量に比べDIP摂取量が多くなり,ルーメン内への窒素供給が過剰になるため,血中の尿素態窒素濃度を高め,繁殖成績を低下させる可能性が示唆された。
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