研究概要 |
Arcが海馬や大脳皮質などにおいてシナプスレベルで記憶形成に重要な働きをしていることが示唆されている。前年までの研究により新最初期遺伝子のArcがフェロモン刺激や交尾刺激に伴って齧歯類の副嗅球顆粒細胞の樹状突起に大量に発現することを確認している(Neuroscience,2002)。本年度はこのような状況を考慮し、より詳細にArcの機能的な意義を検討するために、交尾後に興奮状態の上昇したArc陽性シナプスを電子顕微鏡下で認識できるかを検討した。実験動物には雌マウスを用い、交尾後1-2時間後に灌流固定の後、副嗅球僧帽房飾細胞層を電子顕微鏡で観察した。その結果、交尾後に大量のArc陽性シナプスが副嗅球僧帽房飾層に確認できた。また、そのすべては顆粒細胞の樹状突起であることが確認された。このように脳内他部位と同様にArcは副嗅球においても刺激依存的にシナプスに到達し、何らかの機能的な働きをしている可能性が示唆された。生体内において興奮度の高まったシナプスを標識する事は、非常に困難であり、この技法は今後の神経科学の発展に貴重な情報をもたらす可能性があると考えられる。このように本研究は当初の研究計画に沿って検討をおこない十分な成果が得られたと考えられる。その解析結果は、現在、二編の学術論文として海外専門誌に投稿中である。 平成14年度科学研究費補助金はガラス器具、実験動物、試薬等の消耗品の購入、および標本収集のための旅費に充当した。
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