研究概要 |
腸管は栄養素吸収の場であるとともに、栄養素による刺激の受容器としても働く。これまでに、消化管内分泌細胞株を用いた細胞培養系では、栄養素がMAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase)経路を活性化し、その結果、様々な遺伝子の発現を上昇させることが明らかとなった。しかしながら、個体レベルで栄養素摂取と腸管MAPキナーゼ経路の活性化を検証した報告は無く、本キナーゼ経路の活性化が如何なる生理現象へと結びつくのかについても不明である。本研究では、腸管におけるMAPキナーゼ経路活性化の生理的意義を明らかにすることを最終的な目的とし、その第一段階として、様々な栄養素で刺激を加えた時の小腸におけるMAPキナーゼ活性の変化を調査した。 動物は48時間絶食したラットを用い、麻酔下で小腸と胃の吻合部に流入口としてカテーテルを挿入するとともに、流出口として小腸中央部にもカテーテルを挿入した。環流液にグルコース、グルタミン、乳化脂肪、蛋白質分解産物を溶解し、カテーテルを介して小腸内をそれぞれの溶液で環流した。環流後、腸管粘膜を剥離し、MAPキナーゼのリン酸化量をウェスタンブロッティング法により測定した。 対照群のリン酸化MAPキナーゼ量と比べて、グルコース溶液群ではリン酸化量が約6倍上昇した。また、グルタミン溶液群でもリン酸化MAPキナーゼ量は対照群の3.5倍にまで上昇した。一方,脂肪エマルジョン溶液群および蛋白質分解産物溶液群では変化がみられなかったか、むしろ低下する傾向にあった。腸管のエネルギーとなるグルコースやグルタミンはMAPキナーゼを活性化するが、直接腸管のエネルギーとは成り得ない脂肪や蛋白質分解産物では何ら効果をもたらさないことが明らかとなった。したがって、摂食により腸管粘膜組織でMAPキナーゼ経路を活性化する因子は腸管のエネルギー源となる特定の栄養素であると結論した。
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