平成13年度に引き続きウシWnt分子のクローニングを行った。マウスやヒューマンのWnt10bと比較すると短かったため、翻訳開始位置周辺での高次構造形成のため逆転写がうまくいかないのではと考え、逆転写反応の温度を上げたり、複数の別のプライマーで5'-RACE(rapid amplification of cDNA ends)を行った。昨年度までと比べ5'側に伸びたクローンはいくつか得られたが、同じ読み枠では途中で終止コドンが入るため翻訳開始位置が上流に伸びることはなかった。結局得られたウシWnt10bの全長は267アミノ酸残基からなり、マウスとヒューマンの389残基と比較し非常に短いことが明らかとなった。それらとアミノ酸配列比較を行ったところ、マウスとは92.9%、またヒューマンとは94.8%と非常に高い相同性が見られた。 他の生物種と比較し短いこのウシWnt10b分子が活性を有するかどうか調べるためウシ脂肪前駆細胞でのWnt10bの大量発現を試みた。ウシWnt10b全長cDNAをPCRにより増幅しクローニング後シークエンスチェックを行いPCRによる増幅の誤りがないことを確認した。こうして得られたウシWnt10b遺伝子を哺乳類細胞発現ベクターであるpcDNA3.1に導入した。このベクターDNAとコントロールであるpcDNA3.1をウシ脂肪前駆細胞にそれぞれリポフェクション法によりトランスフェクトし、分化誘導をかけた際の脂肪細胞分化に対するWnt10bの影響について調べた。キットのプロトコール通りに行うとトランスフェクトの際細胞が剥がれてしまったため、少し緩めの条件でトランスフェクトを行ったところ、今度はトランスフェクションの効率が悪かったのかコントロールと比較し脂肪蓄積は変わらず、また分化の指標であるグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)活性においても変化は見られず、ウシWnt10bの脂肪細胞分化抑制活性は確認出来なかった。これについてはウシ脂肪前駆細胞へのトランスフェクションの条件についてさらなる検討が必要であると考えられた。
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