研究概要 |
1.本研究は、オーエスキー病ウイルスの増殖に必須の転写調節因子である前初期蛋白IE180がマウス個体に与える作用と神経病原性発現における役割を調べる目的で、IE180遺伝子を導入したトランスジェニック(Tg)マウスを作製した。確立した5系統のオーエスキー病ウイルスIE180発現Tgマウスの内、3系統のマウスにおいて、歩行中のよろめき、横転、全身の震えが観察され、対照マウスに比べ有意な運動協調性の低下が認められた。また、症状の認められたマウスの小脳は、対照マウスの小脳と比較し明らかに小さく、その病理組織学的解析においては、小脳の層構築が不規則で、一部分子層ならびに顆粒層の欠如が観察された。免疫組織化学的解析から、プルキンエ細胞の配列は不規則で、プルキンエ細胞から伸びる樹状突起の2次、3次突起の形成が極めて粗であった。また、プルキンエ細胞層から表層へ伸びるGFAP陽性線維が認められなかった。また、運動障害の認められない1系統のマウスに網膜形成異常が認められた。以上の結果から、IE180の発現が小脳および眼の形成に影響を与えることが示唆された。 2.オーエスキー病ウイルス非存在化での潜伏感染関連転写産物プロモーター(LAP)の組織特異性を調べる目的で、LAPで駆動するレポーター遺伝子(CAT)導入トランスジェニックマウスを作製した。LAPからの転写をRT-PCRを用いて解析したの結果、三叉神経を含む12の組織すべてにおいてCAT mRNAが検出された。次にCAT発現量を比較するために各組織抽出液中のCAT量をCAT-ELISAを用いて測定した。その結果、三叉神経においてCATが最も強く発現していることが確認された。また、CAT mRNAの発現をin situ hybrizization法を用いて解析したところ、三叉神経節でCAT mRNAが発現していることが確認できた。再活性化を誘導する刺激(UV,免疫抑制剤)を、このトランスジェニックマウスに与えた時の、CAT発現量の変化をCAT-ELISAを用いて測定したが、再活性化誘導刺激によるCAT発現量の変化は認められなかった。以上のことから、LAPは、ウイルス蛋白非存在下でマウスの全身で遺伝子を発現させることができること、および三叉神経節では高い活性を示す可能性があることが示唆された。
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