研究概要 |
ネオスポラ原虫は,ウシでは反復性の流産を惹起する.本原虫は,最近まで1属1種(Neospora caninum : NC)とされていた.しかしながら,近年馬から分離された本原虫を遺伝子レベルで検討したグループは,その原虫と NC の internal transcribed spacer (ITS)-I 領域の塩基配列に7塩基の相違があることを見出し,新種のネオスポラ(Neospora hughesi)として報告している.一方,実験的研究から,ヒツジはウシ由来の本原虫に対する感受性が高いとされているものの,ヒツジでの本症の自然発生は1例しか知られておらず,多くの流産ヒツジを対象とした検索でもヒツジの流産への NC の関与に関しては否定的な結果しか得られていない.このような背景の中,申請者らは世界で初めてヒツジから病原性が弱いと推察されるネオスポラ原虫を分離した.そこで,本年度は世界で初めて分離したヒツジ由来ネオスポラ原虫の生物学的特徴を明らかにする手掛かりとして,分離原虫の ITS-I 領域の塩基配列を検索した.また, ICR, BALB/cおよびヌードマウスへの感染実験を行い,その病原性について検討した. その結果,分離原虫の ITS-I の塩基配列検索では,ウシ由来 NC とは3塩基の,イヌ由来 NC とは5塩基の相違が検出された.また,分離原虫のマウスへの感染実験では,これまでに NC で報告されている種々の臓器・組織で壊死性・炎症性病変が確認された.しかしながら,その程度はこれまでに報告されているネオスポラ原虫のそれらと比較して弱く,病変の好発部位も若干異なっていた.また,組織切片上でのタキゾイトの検出もヌードマウスでのみ可能であった. 分離原虫が新種であるか否かについては,他の領域の塩基配列の比較,免疫学的な比較,および更に詳細な比較感染実験を実施しなければ結論は出せないが,少なくとも分離原虫と既知のネオスポラ原虫との間には,若干の生物学的な差異があることが確認された.
|