本研究は、雌雄異株植物であるアサの性染色体を形態学的・分子生物学的に解析することにより、高等植物の性分化機構の一端を明らかにすることを目的としている。平成14年度は、主に分子生物学的手法により、Y染色体由来DNA配列の獲得を試みた。 まず、100種類のランダムプライマーを用いたRandom amplified polymorphic DNA (RAPD)法により、アサの雌雄間におけるDNAの差を比較した。その結果、LTR型レトロトランスポゾンの一部と高い相同性を示す雄株に特徴的な2つのクローンが得られた。in situ hybridizationにより染色体上での局在を調べた結果、これらの配列は全染色体に散在していたが、特にY染色体に多コピー存在することが示唆された。次にマイクロマニュピレーターによって回収したY染色体を鋳型に用いてdegenarate oligonucleotide-primed PCR (DOP-PCR)法によりY染色体由来配列のクローニングを試みた。DOP-PCR産物をランダムにクローニングし、アサの雌雄それぞれのtotal DNAを用いて雄株DNAにハイブリダイズするクローンをスクリーニングした。その結果、RAPD法によって得られたクローンと同様にレトロトランスポゾンをコードする配列や複数の機能遺伝子と高い相同生を示すをクローンが得られた。さらにY染色体の部分的損傷による突然変異株を獲得するため、アサの雄花の蕾に重イオンNeビームを照射し、照射後の花粉と正常雌個体を交配させることにより、雌株でありながら雄花をたくさんつける個体(間性雌株)を獲得した。 以上のように本年度は、X染色体や常染色体に比べY染色体に多コピー存在するレトロトランスポゾン様配列、Y染色体由来と考えられるクローン、雄花をたくさんつける変異雌個体を獲得することに成功した。
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