ゴルジ体-エンドゾーム-細胞膜間輸送動態を解析する手段として、pH変化に安定なGFP変異体であるsapphireをインシュリン様成長因子2/マンノース6リン酸受容体(IGF2/M6PR)の全アミノ酸配列あるいは細胞質ドメインのみに結合させた、2種類の融合蛋白を構築した。これらをHeLa細胞に一過性に発現させその分布を調べたところ、両者供に内在性のIGF2/M6PRの分布と大きな違いは認められなかったが、細胞質ドメインのみを有するsapphire融合蛋白は細胞末梢部においてやや異なる分布を示した。この傾向はGFP融合蛋白を用いても同様であった。次にGFP融合蛋白を発現後、生細胞においてトランスゴルジネットワーク(TGN)領域をブリーチングし、その後の蛍光シグナルの回復を定量した(fluorescence recovery after photobleaching 実験;FRAP)。得られた回復曲線はGFP-IGF2/M6PRがTGNとそれ以外の領域(エンドゾームや細胞膜)を一次反応的に相互移動すると仮定した2-コンパートメントモデルによく合致した。このモデルから2つのコンパートメントをリサイクルするのに要する時間を算出したところ、全アミノ酸配列を含む融合蛋白は39.9±7.7分、細胞質領域のみを含む融合蛋白は30.2±7.7分であり。この違いは後者が末梢部で滞留している時間が短いことを反映していた。以上の結果はFRAP実験を用いてIGF2/M6PRの輸送動態の定量化に成功したことを示し、さらに同分子の細胞質外ドメインが末梢における輸送動態に影響を与えていることを示唆する。 また、細胞にIGF2を投与するとGFP-IGF2/M6PRの細胞表面への局在が増加すことを予備実験から得ており、次年度は同現象をFRAP実験により解析する予定である。
|