心内膜床は初期胚心臓に生じる弁や中隔の原基で、房室管と流出路の内皮細胞が間葉細胞に転換して形成される。心内膜床の形成異常は先天性心疾患の原因の一つになる。心内膜床形成で起こる内皮(上皮)-間葉形質転換は、心筋から分泌される未知のシグナル因子と心内皮細胞から分泌されるTGF-β(Transforming growth factor-β:形質転換成長因子-β)によって制御されている。申請者は、心筋細胞からのシグナルとしてTGF-βファミリーに属するBMP2 (Bone morphogenetic protein 2:骨形成因子2)を同定し、TGFβ3と協調的に作用することを報告した。予備実験から、TGF6とBMP2の協調作用には、ホメオボックス遺伝子であるMsx1の重要性が示唆された。Msx1は、マウス胚やニワトリ胚でのmRNAの発現様式から上皮-間葉形質転換にかかわっていると予測されているがその詳細はいまだ不明である。申請者はこれまでの研究で、心内膜床形成領域の内皮細胞と間葉にMsx1 mRNAとタンパク質が発現するが、心筋細胞には発現しないことを明らかにした。本年度は、心内膜床領域でのMsx1の機能を明らかにするため、アンチセンス法でMsx1の機能阻害を試みた。その結果、内皮-間葉形質転換が阻害されることが明らかになった。このとき、いくつかの成長因子や間葉細胞のマーカー分子をRT-PCR法で調べたところ、TGFβ2、-3、Slug、α平滑筋アクチン、フィブリリン-2、タイプ1コラーゲンの発現が減少していた。以上の結果から、心内膜床形成過程で起こる内皮-間葉形質転換でMsx1は、BMP遺伝子の下流に位置し、間葉細胞に発現するタンパク賀を制御している可能性があることが示された。
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