細動脈において、内皮細胞に対する流れ刺激(shear stress)は一酸化窒素(NO)やプロスタグランジンの放出を介する血管拡張を誘起することが知られている。しかし種差・部位差の検討はまだ十分行われていない。一方、shear stressは内皮細胞内のpH変化を誘起することも報告されているが、この内皮細胞pH変化の細動脈径に及ぼす影響についてはこれまで全く検討されていない。培養ラット内皮細胞において、shear stressによる細胞内のpH変化には重炭酸イオンの有無が大きく影響することが報告されている。そこで今回は手始めにハムスター骨格筋より摘出した灌流細動脈標本を用い、流れ依存性拡張反応の動態および重炭酸イオンの影響について検討を行った。 内腔に流れのない状態で内圧を80cmH_2Oに維持すると、細動脈は最大径の50%程度に収縮した(内因性緊張)。この状態で重炭酸イオンを含まないMOPS液を灌流すると、標本は用量依存的な拡張反応を示した。この拡張反応はNO合成酵素阻害薬であるL-NAMEの前処置により元の50%以下に抑制され、さらにK^+チャネル阻害薬であるカリブトトキシンおよびアパミンの内腔投与によりほぼ完全に抑制された。従ってMOPS液灌流時の拡張反応はNOおよびEDHFを介することが示唆された。一方、10mMの重炭酸イオンを含むMOPS液を灌流すると、流れ依存性拡張反応は著明に増強した。重炭酸イオンはHCO_3^--Cl^- exchangerを活性化しpHを下げるという報告があり、よって拡張反応増強には内皮細胞内pH低下が関与することが想定された。今後この仮説の検証のため、HCO_3^--Cl^- exchangerのブロッカーであるDIDSを用いて検討を行い、さらに拡張反応増強のメカニズム解明のため、種々のブロッカーを用いて検討を行う予定である。
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