Hypoxia-inducible factor 1(HIF-1)は、低酸素環境における細胞の生存に寄与する、種々の生理活性物質の転写因子である。心臓の低酸素耐性獲得機構におけるHIF-1の役割を解明するために、本年度は、ラットの心臓におけるHIF-1の蛋白発現を、Western blot法を用いて検出することから研究を実行した。HIF-1の2つのサブユニットのうち、HIF-1α蛋白は常酸素環境では検出不能に近いか、慢性低酸素環境暴露により著増して検出可能となるinducibleな要素であり、HIF-1の活性を一義的に決定するといわれている。このことは培養心筋細胞においても過去の報告で示されている。しかし、本研究では、常酸素環境で飼育したラットの心臓においても、HIF1-α蛋白は確実に検出され得た。静止している培養細胞と、実際に絶えず収縮しているintactな心臓との違いか、過去の多くの報告とは異なるこの結果に関係しているのかもしれない、と考えている。また、中等度(1/2気圧)の低圧低酸素環境に、ラットを24時間暴露したが、現時点までのところ、心臓におけるHIF1-α蛋白発現の、常酸素環境でのレベルからの統計学的に有意な変化は認められていない。ラットが順応可能な中等度までの低酸素環境での、心臓におけるHIF-1αの誘導様式について明確に結論するには、より短期間、あるいはより長期間の暴露による影響を観察する必要がある、と考えている。
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