高齢者や宇宙飛行士に出現する筋萎縮は、これまで萎縮筋自体の変化(筋繊維の形態や代謝の変化)を中心として研究され、運動時の心循環・体温調節機能変化の視点から、筋萎縮に伴う運動能力低下を検討した研究はない。本研究の目的は、頭を6°下げて長期臥床する6°head-down bed rest(HDBR)法によって萎縮した抗重力筋を用いて運動した際の、心循環・体温調節系応答を検討することである。 被験者となることを承諾した健康な学生12名を対象として、名古屋大学保健学科を会場として、平成13年8月に、14日問の6°head-down bed rest(HDBR)実験を実施した。HDBRのの開始10日前および終了直後に、足関節底屈運動試験(最大随意筋力の80%の強度、2分間)を、室温27±1℃の環境下と暑熱環境下(麻酔用ウォーターブランケットを用いて42℃で1時間負荷、深部温度0.2℃上昇)にて行った。HDBR後は最大随意筋力は13%低下したが、運動試験はHDBR前と同一の絶対強度を負荷して行った。これらの運動負荷試験において、筋交感神経活動(マイクロニューログラフィー法)、心拍数(胸部誘導の心電図)、連続動脈血圧(Portapres Model 2)、一回拍出量と心拍出量(Portapres Model 2)などの心循環系パラメータと、発汗波(カプセル換気法)、末梢皮膚血流量(レーザー・ドップラー法)、皮膚温と鼓膜温(サーミスタ法)などの体温調節系パラメータを測足した。これらの実験は、申請時の計画通りに進められ、無事終了した。 実験結果を解析したところ、HDBR後に萎縮をきたした下腿を用いて運動した時の筋交感神経活動の増加反応は、HDBR前に比べて減弱することが判明した。その他、実験結果の詳細については、現在、解析を進めているところである。
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